大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)3534号 判決

両事件原告

グレッグ・ヒポリト・ヤナギダ

右法定代理人親権者養父

栁田好一

三五三四号事件原告

レイナン・ヒポリト・ヤナギダ

原告ら訴訟代理人弁護士

大貫憲介

一九四号事件被告

法務大臣

三ヵ月章

三五三四号事件被告

右代表者法務大臣

三ヵ月章

被告ら指定代理人

伊藤一夫

外九名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求の趣旨

一  被告国は、原告らに対し、それぞれ金一〇万円を支払え。

二  被告法務大臣が原告グレッグ・ヒポリト・ヤナギダに対して平成五年五月一三日付けでした在留資格変更不許可処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、日本人と養子縁組をした外国人である原告らが、養親と同居することを理由として在留資格を「短期滞在」から「定住者」等に変更する旨の許可申請を数度にわたって行ったが、被告法務大臣(以下「法務大臣」という。)からいずれもこれを不許可とする処分を受けたため、平成四年九月三〇日付けの在留資格変更不許可処分が違法であるとして、原告らが、被告国に対して、損害賠償を求め(三五三四号事件)、また、平成五年五月一三日付けの在留資格変更不許可処分が違法であるとして、原告の一名が、法務大臣に対して、その取消しを求めた(一九四号事件)事案である。

一  各在留資格変更不許可処分の経緯等(これらの事実は、当事者間に争いのない部分のほかは、甲一、二、一五号証、乙一八号証により認められる。)

1  原告グレッグ・ヒポリト・ヤナギダ(以下「原告グレッグ」という。)は、一九七七年(昭和五二年)五月五日生まれのフィリピン国籍を有する外国人、原告レイナン・ヒポリト・ヤナギダ(以下「原告レイナン」という。)は、一九七一年(昭和四六年)二月二八日生まれのフィリピン国籍を有する外国人で、両者は異母兄弟である。

2  原告グレッグの姉であり、原告レイナンの異母姉である栁田ヒポリトアニー(以下「アニー」という。)は、昭和五八年七月四日に、栁田好一(以下「好一」という。)と婚姻し、昭和六〇年一二月二〇日に長男広樹を、昭和六二年七月二八日に長女えり子をもうけている。

3  原告らは、平成三年三月九日から平成四年三月一五日まで本邦に在留したが、好一は、平成三年一〇月三日、前橋家庭裁判所から、原告らを養子とすることの許可を受け、同月九日、原告らとの養子縁組を前橋市役所に届け出た(以下「本件養子縁組」という。)。

そして、右の在留期間中である平成三年一〇月一五日、在日フィリピン領事の許可を受けて、原告グレッグは、氏を「トラビリア」から、原告レイナンは、氏を「サラッド」から、いずれも現在の「ヤナギダ」に変更した。

なお、原告らは、平成四年三月七日、それぞれ、法務大臣に対して定住者としての在留資格認定証明書の交付を申請したが、同年六月二日、法務大臣は、右申請に対して、いずれも在留資格認定証明書を交付しない旨の処分をした。

4  原告らは、平成四年七月一一日、東京入国管理局成田支局(以下「成田支局」という。)において、在留資格「短期滞在」及び在留期間九〇日の上陸許可を受けて再び本邦に上陸した。

原告らは、平成四年八月一八日、それぞれ、東京入国管理局高崎出張所において、法務大臣に対し、好一との同居を理由として、その在留資格を「定住者」に変更する旨の許可申請(以下「本件第一申請」という。)をした。

これに対し、法務大臣は、平成四年九月三〇日、「在留資格変更許可申請を許可する相当の理由がない」として、本件第一申請をいずれも不許可とする処分(以下「本件第一不許可処分」という。)をした。

原告らは、右処分後の平成四年一〇月一〇日、成田支局において在留期間の更新申請を行い、同日、在留期間を一五日とする在留期間の更新許可を受け、同日、本邦を出国し、フィリピンに帰国した。

5  その後、原告らは、平成四年一二月八日、成田支局入国審査官から在留資格「短期滞在」及び在留期間九〇日の上陸許可を受けて本邦に上陸した。

平成五年二月一六日、前橋市教育委員会教育長から好一に対し、原告グレッグを前橋市立第三中学校第三学年に入学させるよう通知がされ、原告グレッグは、同中学校に入学した。

平成五年二月二三日、原告グレッグは、東京入国管理局において、法務大臣に対し、好一との同居を理由として、在留資格を「就学又は定住者」に変更する旨の許可申請(以下「本件第二申請」といい、本件第一申請と併せて「本件各申請」ということがある。)をした。

これに対し、法務大臣は、平成五年五月一三日、「在留資格変更許可申請を許可する相当の理由がない」として、本件第二申請を不許可とする処分(以下「本件第二不許可処分」といい、これと本件第一不許可処分と併せて「本件各不許可処分」ということがある。)をした。

二  争点

本件においては、損害賠償請求に関し、本件第一不許可処分が違法であるか否か、取消請求に関し、本件第二不許可処分が違法であるか否かが争点となるが、この点についての当事者双方の主張の要旨は以下のとおりである。

1  原告らの主張

(一) フィリピン在住の原告らを含むアニーの家族は、アニーが好一と交際を始めて以来、同人から生活費や学費の送金を受けていたが、原告らの父グレッゴリオ・ヒポリトが平成二年三月六日に死亡し、その生活はますます苦しくなった。そこで、原告レイナンの母親であるトリニダット・サラッドの依頼もあって、好一は、原告らを養子として扶養し、監護養育していくことを決意した。このような経緯により、好一は、家庭裁判所の許可を受けて原告らと本件養子縁組をし、原告らは、養親である好一と同居することを目的として、本件各申請をしたものである。

(二) 出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の別表第二は、「定住者」の在留資格を有する者が本邦において有する身分又は地位として、「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」としているところ、「出入国管理及び難民認定法七条一項二号の規定に基づき同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げる地位を定める件」(平成二年法務省告示第一三二号、以下「本件告示」という。)の七号は、右の法務大臣が居住を認める要件として、「前号のイからヘまでのいずれかに該当する者の扶養を受けて生活するこれらの者の六歳未満の養子(第一号から第四号まで又は前号に該当する者を除く。)に係るもの」(イは、日本人のことである。)と定めている。しかるに、原告らは、日本人の扶養を受ける養子であるが、本件各申請当時六歳未満ではなかったので、法務大臣は、本件各不許可処分をしたものである。

(三)(1) しかし、入管法別表第二の下欄は、人道上の理由等から同居を認めるべき場合に、当該養子である外国人に「定住者」の在留資格を与えるべきことも定めた規定であるところ、前記(一)に照らせば、原告らの本件各申請は子の福祉という人道上の理由に基づくものであるから、原告らは、入管法別表第二の「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」に該当する。本件告示は法務大臣が定めた内部基準にすぎず、本件各不許可処分は、それより上位の規範である入管法別表第二の下欄の規定に違反してなされたものであるから、違法というべきである。

そして、本件養子縁組は、家族の自然な情愛及び原告らの監護養育が可能なのは好一及びアニーのみであるという状況に基づいてなされたものであり、この養子縁組を実質的に破壊する本件各不許可処分は、幸福追求権を保障した憲法一三条にも違反する。

また、本件養子縁組により、我が国における原告らの唯一の法律上の親となっている好一は、原告らを監護養育する義務を負う(民法八二〇条)ところ、原告らの安定した在留が認められなければ、好一が原告らを監護養育することは不可能である。そして、好一は、親権者の居所指定権(民法八二一条)に基づいて原告らの居所を原告らの肩書住所地と定めたが、本件各不許可処分によって、右指定も無意味となる。

このように、本件各不許可処分は、人間として最も基本的な親子の情愛や法の保護する親の子に対する監護教育義務及び居所指定権を無効ならしめるものであり、入管法別表第二の下欄の規定に違反し、ひいては、憲法一三条が保障する好一及び原告らの幸福追求権を侵害するものであって、違憲かつ違法である。

(2) また、入管法別表第一の一ないし三の上欄の在留資格をもって日本に滞在する外国人の養子は、同法別表第一の四の「家族滞在」の在留資格を得、養親である外国人が日本に在留する限り、年齢にかかわらず日本に在留することができるとされている。このように、在留資格をもつ外国人の養子に対する取扱いと日本人の養子である原告らに対する取扱いの間には著しい違いがあるが、この差別的取扱いには何ら合理的理由はなく、本件各不許可処分は、憲法一四条の平等原則に反する違憲、違法なものである。

(四) 入管法二〇条三項は、在留資格変更許可申請につき、「法務大臣は、在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。ただし、短期滞在の在留資格をもって在留する者の申請については、やむを得ない特別の事情に基づくものでなければ許可しないものとする」旨規定しているが、本件各申請においては、前記のとおり、右申請に係る変更を適当と認めるに足りる理由があり、また、原告らは、在留資格認定証明書交付申請を含め、定住者の在留資格を得るために、多数の法的手段を講じた後に本件各申請を行ったものであり、また、原告らがいったん出国後、再度希望する在留資格で上陸することの経済的負担や、原告グレッグについては、平成四年一二月八日の上陸後、中学校への通学という事情が生じており、出入国を繰り返せば中学校への通学が困難になること等を考慮すれば、原告らには、やむを得ない特別の事情があるというべきである。

(五) したがって、本件各不許可処分はいずれも違法であり、原告らは、本件第一不許可処分により、精神的苦痛を受けたのであるから、被告国は、右精神的苦痛を慰謝するため、原告らに対し、それぞれ一〇万円を支払うべきであり、また、本件第二不許可処分は取り消されるべきである。

2  被告らの主張

(一) 入管法二〇条三項は、在留資格の変更申請があった場合、法務大臣は、これを適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる旨規定しているところ、同条項がこのように変更事由を概括的に規定しているのは、変更事由の有無の判断を法務大臣の裁量にゆだね、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からである。したがって、在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかについての法務大臣の判断は、右判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法になるというべきである。

(二) ところで、(一)に述べたところを詳述すると、外国人の在留資格の変更申請が許可されるためには、当該外国人の在留状況等の諸般の事情を考慮して、在留資格変更の必要性、相当性が認められ(入管法二〇条三項本文)、短期滞在の在留資格を有する者からの申請については、更にやむを得ない特別の事情に基づくことを要する(同項ただし書)。

そして、法務大臣がこれらの要件を判断するに当たっては、まず、当該外国人が希望する在留資格についての在留資格該当性(当該外国人の行おうとする活動が入管法別表第一に類型化された活動又は同別表第二に類型化された身分若しくは地位を有する者としての活動に該当することをいう。以下、同様の趣旨で用いる。)を有するか否かを判断し、在留資格該当性がある場合に初めて、さらに、在留資格変更の必要性、相当性があるか否か、短期滞在からの変更については、やむを得ない特別の事情があるか否かが判断されることになる。

(三) そこで、まず、右の在留資格該当性についてみると、入管法別表第二の在留資格「定住者」の項の下欄の本邦において有する身分又は地位については、法務大臣が特別の理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者と規定するとともに、この在留資格については、上陸の申請をした外国人が、法務大臣があらかじめ告示をもって定める地位を有する者としての活動を行おうとする者でない限り、入国審査官は、上陸許可の証印を行うことができないこととされており(入管法七条一項二号、九条一項)、本件告示は、その性質上法務大臣が上陸を認めるべき外国人を類型化して規定しているものである。入管法一二条は、法務大臣の採決の特例を定めており、本件告示に該当しない者についても上陸許可の可能性が残されてはいるが、同条が限定的な規定の仕方をしていること等からみて、本件告示に該当しない者については、基本的には、法務大臣が特別な理由を考慮して一定の在留期間を指定して居住を認める者には該当しないというべきである。

原告らは、日本人の養子ではあるが、本件告示に定める地位のいずれにも該当しない者であり、これは在留資格の変更申請を許可し難いとする方向に働く大きな要因となり、この点からみても、法務大臣の本件各不許可処分についての判断には、事実の基礎を欠くところはなく、また、社会通念に照らして著しく妥当を欠くところもない。

(四) 次に、短期滞在の在留資格を有する者からの変更申請については、やむを得ない特別の事情に基づくものであることを要するところ、短期滞在の査証の発給は比較的容易になされるものであり、当初から長期在留等を目的として入国しようとする者との公平を図る見地から、短期滞在の在留資格で入国したものが長期在留等を希望するときには、いったん出国し、その在留目的に見合う査証を所持して、入国審査を経て入国するのが本来の形態であるから、このやむを得ない特別の事情とは、短期滞在の在留資格を有する者について入国後に新たに在留資格の変更を必要とする事情が発生したこと、当該申請者がいったん出国してしまうと、その変更申請に係る在留目的で再度入国することが極めて困難であること等の特別の事情をいうものと解すべきである。

ところで、原告らは、本件各申請において、その主たる理由として、養子として養親と同居することを掲げているが、本件養子縁組の届出がなされたのは、平成三年一〇月九日であり、原告らが平成四年七月一一日に短期滞在の在留資格で上陸した際には、既に生じている事情であり、入国後に新たに生じた事情ではないし、原告グレッグの本件第二申請においては、前橋市立第三中学校に通学する旨の理由が掲げられているが、右中学校への通学は、原告グレッグが平成四年一二月八日に短期滞在の在留資格で上陸する以前に既に希望していたものであり、これも入国後に新たに生じた事情とはいえない。

また、原告らの出入国歴が示すとおり、原告らがいったん出国して再度入国することが極めて困難であるとの事情も存しない。

したがって、原告らに、入管法二〇条三項ただし書のやむを得ない特別の事情があるとはいえない。

(五) なお、原告らは、本件各申請を不許可とすることが、原告ら及び好一の幸福追求権を侵害する旨主張するが、外国人が本邦に入国、在留する権利は、憲法上当然に保障されているものではなく、原告らが外国人である以上、好一の養親としての幸福追求権も、現行の外国人在留制度の枠内で制約を受けるものであるから、本件各不許可処分は憲法一三条に違反するものではない。

また、原告らは、家族滞在の在留資格との対比で、平等原則違反をいうが、家族滞在の在留資格と定住者の在留資格は、その性質を異にするものであるから、それぞれの在留資格をもって在留を認めるべき外国人の範囲に差異を生ずるのは当然であり、これをもって平等原則違反ということはできない。

(六) 以上によれば、法務大臣が、本件各申請について、いずれも在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由がないと判断したことには、裁量権の逸脱又は濫用はなく、本件各不許可処分は適法なものというべきである。

第三  争点に対する判断

一  前記第二の一に掲記の事実に加え、証拠(証人栁田好一の証言、甲五ないし七号証、一〇、一二、一四、一六号証、一八ないし二三号証、乙一九、二一号証)によれば、以下の事実が認められる。

1  好一は、昭和五七年ころ、アニーと知り合い、昭和五八年七月四日に同人と婚姻し、同年一一月ころから、前橋市内で同居を始め、その後、二子をもうけた。

アニーの親族等は当時フィリピンに在住しており、原告グレッグ及びアニーの妹であるデビイは、母親や父母と同居しており、原告レイナンは一人で生活していた。

好一は、アニーと付き合い始めてから、アニーの親族等に送金する等していたが、昭和五九年ころには、原告グレッグらの母親の住居の近くにあるタングラム村に家を新築し、原告ら及びデビイが三人でこの家に住むようになり、同人らは好一らの送金を受け、フィリピンの学校に通っていた。

2  平成二年ころ、原告らの父であるグレッゴリオ・ヒポリトが死亡し、原告らの親族の生活が苦しくなり、原告レイナンの母親に頼まれたこともあって、好一は、原告ら及びデビイを養子とすることとし、平成三年三月九日、原告ら及びデビイは、短期滞在の在留資格で本邦に入国した。

当時、デビイは二一歳であり、フィリピン法上の成年に達していたので、好一は、同月一二日、デビイとの養子縁組届けを行った。

また、当時、原告グレッグは一三歳、原告レイナンは二〇歳であり、フィリピン法上未成年であったので、好一とアニーは、平成三年三月一一日、前橋家庭裁判所に原告らとの養子縁組についての許可を求め、同年一〇月三日、好一は、原告らを養子とすることの許可を得て(なお、アニーによる養子縁組の許可申立ては、フィリピン法に抵触するため却下されたが、好一の申立ては、同人が原告らと単独で養子縁組をすることを許可すべき特段の事情があるとして、民法七九五条にかかわらず認容された。)、本件養子縁組をした。

好一の養子のうち、デビイは、フィリピンで生活することを希望したので、フィリピンに帰国し、タングラム村の家から、大学に通学するようになった。なお、デビイは、その後、右大学を卒業し、タングラム村の家に居住している。

原告らは、日本で生活することを希望したため、同年一一月二六日、短期滞在から定住者への在留資格の変更申請を行ったが、平成四年一月一〇日、右申請はいずれも不許可とされた。原告らは、その後も在留期間の更新を得て、本邦に留まっていたが、同年三月一五日にフィリピンに帰国した。

なお、原告らは、平成四年三月七日に、好一らとの同居を理由として、法務大臣に対して、在留資格認定証明書交付申請をしたが、同年六月二日、これらをいずれも不交付とする処分がされた。

3  原告らは、平成四年七月一一日、再度、短期滞在の在留資格で本邦に入国し、その後、本件第一申請を行ったが、本件第一不許可処分がなされた。当時、原告レイナンは二一歳、原告グレッグは一五歳であった。

なお、好一は、原告グレッグを日本の中学校に入学させるべく、同年八月ころ、前橋市教育委員会等にその旨の要請をしたが、前橋市教育委員会は入学を認めなかった。原告らは、その後、在留期間の更新を受けるなどして、本邦に在留していたが、同年一〇月一〇日、原告らは、本邦を出国し、フィリピンに帰国した。

4  平成四年一二月八日、原告らは、再度、短期滞在の在留資格で本邦に入国した。平成五年二月一六日、原告グレッグが遊んでいる状態は望ましくないということで、前橋市教育委員会教育長から好一に対し、原告グレッグを前橋市立第三中学校第三学年に入学させるよう通知がされたため、原告グレッグは、同中学校に入学した。

その後、原告グレッグは、希望する在留資格を就学又は定住者とする本件第二申請を行い、本件第二不許可処分を受けたが(当時、原告グレッグは一五歳であった。)、現在も好一らと同居し、右中学校に通学している。原告グレッグ及び好一らは、原告グレッグが本邦において高等学校に進学し、将来は本邦に帰化することを希望している。

なお、原告レイナンは、本件第二申請と同時に希望する在留資格を文化活動又は定住者とする在留資格変更申請をしたが、本件第二不許可処分と同時に不許可処分を受けた。好一らは、原告レイナンについては、フィリピンに帰国させるつもりでいたが、その後、原告レイナンは失踪し、現在も行方不明である。

二1  入管法二〇条三項は、在留資格の変更申請につき、法務大臣は、在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由がある場合にこれを許可することができるとし、さらに、短期滞在の在留資格からの変更申請については、やむを得ない特別の事情に基づくものでなければ、これを許可しない旨規定している。

ところで、在留資格の変更は、在留中の外国人が在留目的を変更して新たな在留資格を取得するものであるから、当該外国人が新たに取得することを希望する在留資格についての在留資格該当性の要件に適合することが必要であると解される。すなわち、当初より当該在留資格で入国を希望する場合には、当然にその在留資格該当性を有することが要件とされる以上、新たにその在留資格の取得をしようとして在留資格の変更を申請する場合にも、取得を希望する在留資格についての在留資格該当性が在留資格変更許可の要件となることは明らかである。

2  そして、入管法は、本邦に入国、在留を認める外国人について、外国人が本邦で在留中に従事する活動又は在留中の活動の基礎となる身分若しくは地位に着目してこれを類型化し、各種の在留資格を定めた上、在留資格として定められた活動又は身分若しくは地位を有するものとしての活動を認めることとしている(同法二条の二第二項)。その在留資格のうち、入管法別表第二の在留資格「定住者」については、「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」と規定するとともに、定住者の項の下欄に掲げる地位については法務大臣があらかじめ告示をもって定めるものに限る旨規定し、入国審査においては、上陸の申請をした外国人が、法務大臣があらかじめ告示をもって定める地位を有する者としての活動を行おうとする者かどうかが審査され、その条件に適合している場合に限り、上陸許可の証印を行うこと(同法七条一項二号、九条一項)としている。

一般に、外国人の本邦への上陸、在留を認めるか否かについては、特段の条約、取り決め等がない限り、国際慣習法上、主権国家の広範な裁量により決し得るところであり、外国人に対する出入国管理や在留管理は、国内の治安や保健・衛生の維持、確保、労働市場の安定等の国益保持のための政策的見地から、国際情勢や外交関係等についての政治的配慮をした上で判断されるものであるから、入管法は、出入国管理については、事柄の性質上、その判断を法務大臣の広範な裁量に委ねているものと解される。入管法が、定住者の在留資格について、法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者としているのも、そのような趣旨であり、本件告示は、その性質上、法務大臣が特別な理由を考慮して上陸を認めるべき外国人を類型化が可能な限り網羅的に列挙しており、法務大臣の裁量的な判断を具体化するものである。したがって、本件告示に適合しない者は、基本的には、法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者には該当しないことになる。

もっとも、入管法一二条が、当該外国人が再入国の許可を受けているときその他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるときは、法務大臣はその者の上陸を特別に許可することができる旨規定し、本件告示に適合しない者からの上陸申請についても、上陸許可の可能性が残されていることからすれば、本件告示に適合しない場合でも、在留資格該当性を肯定すべき特別の事情があれば、これが認められる可能性がないではない。しかしながら、右のような特別の事情を考慮して在留資格該当性を認めるか否かについても、基本的には法務大臣の第一次的な裁量判断の対象となるものであり、本件告示が類型化により法務大臣の裁量を具体化しているものである以上、右特別の事情とは、少なくとも、本件告示に類型化して列挙された外国人と同視し得るような特別の事情をいうものと解すべきであり、これを考慮して法務大臣が在留資格該当性を認めないことが著しく妥当性を欠くような場合に初めて在留資格該当性を認めない法務大臣の判断が違法性を帯びることになるというべきである。

3  原告らは、日本人の養子であるが、本件各申請時においては、いずれも六歳未満の養子ではなく、この点で、原告らが、本件告示に適合しないことは明らかである。そこで、原告らに、本件告示に適合しないにもかかわらず、なお、在留資格該当性を認めるべきであるような特別の事情があるか否かについて検討する。

本件告示が日本人等の六歳未満の養子を類型化している趣旨は、六歳未満の者については、養親等の直接的な扶養、庇護等がなければその生活自体が困難であることを考慮したものと解されるところ、前記認定事実によれば、原告レイナンは、本件第一不許可処分当時、二一歳であり、我が国民法上はもちろん、フィリピン法上も既に成年に達しており、現に同人がフィリピンに在住していた際も、一人で生活していたことがあること等に照らせば、原告レイナンについては、六歳未満の養子と同視し得るような事情があるとはいえないというべきである。

原告グレッグは、本件各不許可処分当時、一五歳であり、その年齢に照らせば、親等の扶養を要することもあり得るところであるが、本件告示が、本邦において有する身分又は地位として、単なる未成年の養子ではなく、六歳未満の養子を定めている趣旨は、前記のとおり、養親等の扶養、庇護が直接的なものでなければ、その生活自体が困難であることを考慮したものであると解される以上、単に何らかの扶養の必要性があるというだけでは、未だ六歳未満の養子と同視し得るような事情とはいえないというべきである。確かに、原告グレッグのフィリピンでの生活状況等を考慮すれば、本邦において好一らの直接的な扶養の下に生活することが子の福祉の点からより望ましい場合があり得るとしても、その一事をもって、直ちに、在留資格該当性が認められるべき特別の事情があるとまで断定することはできず、また、前記認定のとおり、フィリピンには、原告グレッグの実母、姉二人、弟が居住しており、原告グレッグらのために好一が新築した家も存在し、好一の養女でもあるデビイは、右家に居住して、フィリピンの大学を卒業していること等に照らせば、原告グレッグが、好一らの送金等による間接的な扶養では足りず、本邦において好一らの直接的な庇護の下になければ生活自体ができないような状況にあるとも断定することはできない。さらに、原告グレッグの姉であるアニーが好一の妻であり、実母の扶養能力等の点も考慮して、好一が本件養子縁組を決意したことからすれば、本件養子縁組が、自然な情愛から生じたものであることもうかがえるが、これらの事情は養子縁組一般に通常みられる点であるともいえ、これをもって、直ちに原告グレッグを好一の実子と同視し得るような特別の事情があるとまでいうことも困難である。

そうであるとすれば、原告グレッグについては、子の福祉上、就学環境に変化をもたらすなどの教育上等の観点から、考慮されるべき点がないではなく、その意味で、右特別の事情の存在を否定することは、やや酷な結果をもたらすことになることは否めないところであるが、この点についての第一次的な判断権者である法務大臣の前記のような広範な裁量的判断を排してまで、右特別の事情の存在を肯定することは、相当ではないといわざるを得ない。

なお、原告らについて、前橋家庭裁判所が養子縁組を認める旨の審判をしていることは前記認定のとおりであるが、在留資格を認めるか否かは基本的には法務大臣がこれを判断するものであり、家庭裁判所の審判においては、在留資格が認められる者であるか否かには関係なく、養子縁組自体の適否が判断されるものであるから、右審判があったからといって、外国人の在留資格が当然に許可されるべきことにはならないというべきである。もちろん、養子縁組の適否を判断するに当たっては、養親の親権行使や扶養義務の履行等の可能性を考慮することになるが、外国人である原告らに対する親権行使や義務の履行は現行の外国人在留制度の枠内で行われるべきものであり、その限度で親権行使等が間接的なものになる場合があってもやむを得ないというべきであって、右親権行使や義務の履行のために、当然に在留が許可されるべきものになるわけではない。

また、原告グレッグについては、前橋市教育委員会教育長が前橋市立第三中学校に入学させるように通知しており、現在、原告グレッグが同中学校に通学していることは前記認定のとおりであるが、右入学の許可は、原告グレッグが本邦において、いずれの学校にも通学していない状態が望ましくないという観点からなされたものであるし、右入学の許可がなされたことをもって、在留が許可されるべきことになるわけではない。

以上によれば、原告らについて、法務大臣が定住者の在留資格該当性を認めるべき特別の事情がないと判断したことが、著しく妥当性を欠くものであったと断定することはできないものといわざるを得ない。

4  原告らは、この点に関し、本件告示は内部基準にすぎず、入管法別表第二の定住者の項の下欄は、人道上の理由等から同居を認めるべき場合に定住者の在留資格を与えるべきことを定めた規定であり、本件各申請については、人道上の理由からこれを許可すべきであり、これを与えないことは入管法の規定に違反し、ひいては憲法一三条にも違反する旨主張する。しかしながら、前記のとおり、入管法は、定住者の地位について法務大臣があらかじめ定める告示によることを予定しており、本件告示が単なる内部基準にすぎないものということはできないし、また、人道上の理由が、法務大臣が定住者の地位を認めるに当たって考慮すべき特別な理由に含まれるとしても、前示したとおり、外国人在留制度の趣旨に照らせば、外国人に対する親権行使等が外国人在留制度の枠内で行われざるを得ないものである以上、原告らの主張するように、親権行使等が養親子間の情愛に基づくものであっても、その限度での制約を受けることになるのはやむを得ないところであり、こうした制約があることをもって、直ちに定住者の在留資格が与えられるべき人道上の理由があるとか、右在留資格を与えないことが憲法一三条に違反するということはできないというべきである。したがって、原告らの右主張は直ちには採用できない。

また、原告らは、日本に在留する外国人の養子であれば家族滞在の在留資格を得ることができることとの対比で、日本人の養子の場合に六歳未満に限ることが差別的取扱いである旨主張する。しかしながら、家族滞在の在留資格を有している者は、同者を扶養している外国人の本邦における活動目的が達成されれば、その者と共に出国することが予定されているのであり、また、扶養を受ける配偶者又は子として行う日常的な活動を行うことができるにとどまるのに対し、定住者の在留資格を有している者は、一定の活動が終了すれば、本国に帰国することが予定されているのではなく、その性質上長期の在留が予定されるのであり、在留活動に何らの制限もない等、その性質を異にするものであるから、それぞれの在留資格により在留が認められるべき外国人の範囲が異なることになっても、合理的な理由を欠くものとはいえず、これをもって平等原則違反ということはできないというべきである。したがって、原告らの右主張も採用できない。

5  なお、原告グレッグは、本件第二申請において、変更を希望する在留資格を「就学又は定住者」とし、就学の在留資格への変更をも求めていると解されるが、入管法別表第一の四の就学の在留資格は、同項の下欄の規定からも明らかなように、本邦の高等学校等の教育機関において教育を受ける活動を行うことができるものとされており、原告グレッグのように本邦の中学校で教育を受けているにとどまるような場合には、就学の在留資格該当性がないことは明らかである。

三  以上のとおりであるから、法務大臣がした本件各不許可処分は、その余の点について判断するまでもなく、適法であるといわざるを得ず、原告らの請求は、いずれも理由がないことになるから、これを棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官秋山壽延 裁判官竹田光広 裁判官森田浩美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例